年次大会2025 inサイエンスアゴラに企画出展したJAASシンポジウム「信頼される科学、活躍できる研究者へ」のうち、後半セッションである「日本の研究力を再生する(人材育成)」は、研究力低下を“研究者を育て、支え続ける仕組み”の再設計から捉え直す場として企画しました。今回はこちらを紹介します。
日時:10月25日(土) /13:30~15:00
会場:日本科学未来館7F 未来館ホール
企画趣旨:トップ10%論文の比率の低下など、近年、日本の研究競争力は著しく低下し、世界的プレゼンスが失われつつあります。その背景には、研究資金の過度な選択と集中や、改正労働契約法の影響による有期雇用の常態化など、研究人材を取り巻く環境の悪化が挙げられます。とりわけ若手研究者にとって雇用の不安定さは深刻であり、長期的な視点に立った研究の継続やキャリア形成が困難となっています。研究の基盤を支えるのは人材であり、その育成と処遇改善なくして日本の科学技術の再生はあり得ません。博士人材がアカデミアのみならず産業界・官界においても力を発揮できる社会の実現に向けて、制度改革と政策支援の在り方を多角的に議論します。
年次大会特設サイト企画ページ
日本の科学を支える大学の役割から科学の発展を考える
トップ10%論文比率の低下などの指標に加え、「選択と集中」の過度な進行、有期雇用の常態化、博士課程進学者の減少、いわゆる“研究氷河期”世代の静かな離脱が重なり、研究を支える「人」の基盤が揺らいでいる ─この危機感を出発点に、制度改革と政策支援のあり方を「政・官・学・民」の対話の場として位置づけ、現場の声を政策や制度に反映させること、研究の中心的役割を果たす大学の未来像、さらに策定が進む「第7期科学技術・イノベーション基本計画」に焦点を絞り、シンポジウムを展開しました。

冒頭に三輪(国立精神・神経医療研究センター/JAAS)が問題意識を共有し、続いて古川哲史先生(東京科学大学)から、都心型大学の立場から、大学の将来像としてScience Tokyo(東京科学大学)の「Visionary Initiatives(VIs)」と「国際医工共創研究院(医工研)」の2本柱が紹介されました。次に磯谷桂介先生(中部大学)からは、地方都市型大学の立場から、研究力再生を“トップ層だけの強化”に閉じず、地域に点在する特色ある大学・研究者を活かして大学群全体の「研究活動の厚み」を回復すべき、という提言が示されました。具体策として、国際卓越研究大学やJ-PEAKSの次に位置する“中間層”の底上げ、点在する優れた研究者を組織的に支える仕組み、そして大学共同利用機関がハブとなる機関間連携の本格化が論点となりました。
パネルディスカッション(モデレーター:市川衛さん)では、大野敬太郎議員(政策)、金井良太さん(産業・R&D)、古川先生、磯谷先生、三輪が加わり、「第7期科学技術・イノベーション基本計画に関する中間提言(https://www.jimin.jp/news/policy/211366.html)」を共通の土台に、研究力回復と人材育成をどう両立させるかを具体論で掘り下げました。
大野敬太郎議員:中間提言に込めた危機感と改革の軸
大野議員は、この中間提言に「もうこのまま衰退し続けるわけにはいかない。第7期の5年間で確実に復活の道筋をつける」という強い危機感と決意を込められている、というお話でした。加えて、時代の変化にあった形での大学の変革を自ら産み出す必要があるとも強調されていました。特に、「III 改革を貫徹する体制変革 提言11・12」に関しては、改革を実行するためのガバナンスと意思決定の仕組みを変えていくことが不可欠だという問題意識が印象的でした。

図:自民党による第7期科学技術・イノベーショ基本計画に関する中間提言(https://storage2.jimin.jp/pdf/news/policy/211366_1.pdf)
・提言3: AIを活用した研究手法等の飛躍的革新(AI for Science)
(金井氏)研究者がルーチンでやっていることなどを自動化により効率・生産性を上げるなど、科学の発展にAIを活用していくことになる。AIによって研究のスピードが変わる可能性がある今、AIは科学にとどまらずいろいろな分野に共通して使えることから、研究の基盤を支える上でも極めて重要な領域である。
(古川先生)東京科学大では細胞の培養などロボットを使い自動化を進め、研究者は創造的な活動に時間を使ってもらう取り組みを始めている。

・提言4:研究の基盤を支える公的研究資金の大幅拡充
(大野議員)研究とは投資であると考えており、リターン(必ずしも金銭的なものを求めているわけではなく、インパクト投資というものがあるように、インパクトにコミットすることも想定している)があり、社会に裨益することなのでやらなければいけない。単に倍増しようとしているわけではなく、社会を共に同じビジョン・目標を描いて変えていける人・領域について増やしていければ」と考えている。
(古川先生)同じビジョン・目標に共感してくれて前に進めていけるため、対話の重要性を強調したい。
(磯谷先生)大学は多様性あってからこそであり、次に何が出てくるかわからないという考えを残さないといけない、新しいビジョンを見つけるためにも基礎研究は重要であり、疎かになってはいけない。
・提言6:若手研究者への研究支援の倍増
(大野議員)政策としてさまざまな事業を作ったとしても、現場になかなか意図が届かず、若手研究へのシフトが進んでいない。若手支援プログラムなど予算獲得へのインセンティブが強くなり、お金が目的化しているのではないか。
(来場者・Slido)若手(20〜30代)は注目されているが、それより少し上の氷河期世代の研究者がポストが不十分だったり、予算がとりにくかったり、若手支援が拡充されるとその枠から外されていて辛い。
(大野議員)氷河期世代の研究者の支援も必要であり、大学単位のガバナンスという意味で運営費交付金を増やしたい。
(古川先生)若手研究者支援は随分前から言われており、取り組んでいるが成果が上がらない。取り組んでいるところ以外の目に見えていないところに原因があるような気がしている。独創的で面白いことにチャレンジしている研究者をきちんと評価して、アカデミッククレジットとして論文の数だけでなく、もっと長い目で評価するなど、ボトルネックになっているものは何かということをしっかり考え、大学としても教員評価のあり方について取り組まなければいけないと感じている。
(磯谷先生)予算配分ももっと目的に沿った形がよいのではないか?目的と手段と研究現場への予算配分を改善する必要がある。
「お金の総量」だけでなく「お金の流し方」を変える
(大野議員)”科学技術創造立国「再興の10年」への羅針盤 第II章 世界トップレベルの基礎研究力の回復”は、お金の流し方を変えたいという思いを込めた。昔は、運営費交付金がメインで大学に交付し、大学が研究者の比較的自由度を担保していた。しかし、それは効率が悪いのでは?という話になり、大学にガバナンスを持ってもらいたいという当時の流れから、現在、運営費交付金を減らし、競争的資金を増やすことになった。しかし、当たり前だが、競争的コストがかかるので、全体の研究が目減りしてしまった。さらに、個人に配分するので、それぞれ好き勝手して、共用化できないという問題が生まれている。したがって、どこかやり方を変えなければいけないと政策誘導してきたが、一部うまくいっていない面がある。ギリギリしばられてやるとつまらないものしかできないので、ガバナンスの仕組みで自由度を担保したいと考えている。一方で、戦略領域、例えば、国家安全保障のために必要な領域や国家の成長ために必要な領域、他国に負けないための領域などは選定する必要はある。

「夢を持てる」エコシステムに向けて
総括で共有されたメッセージは明確でした。大学だけが変わっても、政府だけが変わっても足りない。社会も一緒に変わる必要がある。そのために、政治・行政・大学が「共通言語」を持ち、“こういう社会を目指す”という方向を揃えた上で、資金・人材・組織改革を結び直していく──この合意形成こそが、みんなが将来に「夢を持てる」エコシステムの前提になる、という点でした。今回のシンポジウムは、JAASの設立理念の1つである「対話」を体現できた内容となり、第7期科学技術・イノベーション基本計画の策定に向けて、12の提言に関わった大野議員をお招きして、その背景にある意図について、産官学はもちろん来場者を含む科学に関わる様々なステークホルダーで意見交換・情報共有の機会となった。今後もこのような「対話」の機会を作ることで「共通言語」を持ち、科学技術創造立国「再興」の礎となる活動を展開していきたい。

以下は来場者からSlidoに寄せられた意見です。たくさんのご意見をいただき誠にありがとうございました。当日は時間の関係上、全てを議題にあげることはできませんでしたが、今後のJAASの活動に活用させていただきたいと思います。
- 外国人研究者が増えた結果、サポート対応に日本人研究者の時間が取られ、本末転倒になっている。
- 研究者は産業分野と呼べる規模があるのに、キャリア不安定さがアーティスト/スポーツ選手並みなのは是正すべき。
- 氷河期世代に限らず、研究者は予算がないと大学がポストを増やせず(維持できず)、結局予算が決定的。
- 「選択と集中を解消」と言うが、周りを見ると同じ人が同じテーマで大型研究費を取り続けている。
- CREST等でも成果が社会的に認められるまで10〜20年かかる。改革がうまくいっても同程度かかることを、科学“以外”が我慢できるのか。
- 若手研究者だけ増やしても、若手でなくなった後のキャリアが見えないと研究者にならないと言われ続けている。
- 若手(20〜30代)より上の世代が苦しい、という声もある。
- (政治メッセージとして)「頑張れば報われる社会」「若者の挑戦を支える未来の投資」。
- 若手支援が進路に効きにくいのは、研究者としてのキャリアが不透明すぎるのが原因。安定したキャリアが予見できないと人材育成は欺瞞になりうる。
- 「少子化だから大学は減らすべき」は公共経済学的に否定されている理解。
- ①科学技術リテラシー底上げ(研究成果に触れる機会の拡大・研究者の発信)、②研究従事者のライフプラン支援、③研究機関と教育の分離(大学院以降は“研究従事者”育成に重点)。
- 若手支援はあるが、声を上げてきた氷河期世代への支援は考慮されていない。
- 国際卓越研究大学やムーンショットの規模を考えると、科研費倍増はもっと速やかに実現できるのでは(10年かけるのはもっと大きな目標では)。
- 基幹産業で外貨を稼いだ分を研究へ投資する循環を。
- 「電気代が払えず図書館の開館短縮」等、国立大は設備更新も困難で研究以前が不安定。科研費・運営費交付金へ十分な公的資金を、一般市民として機運を盛り上げたい。
- 資金投入と成果は比例する面もあるが、増額=成果確約ではない。「13位→3位」等の目標共有と前向きな活動、その過程に意義がある。
- 財務省が研究投資に後ろ向きだった時代が続いたと聞く。研究者が声を上げて財務省のマインドは変わったのか。
- 提言8「サポート人材の基盤強化」は、どんな方策があり得るか。
- お金が増えない前提なら効率化・共通化が必要だが、多様性が犠牲にならないか。
- 基礎研究の重要性が指摘され続ける一方、日本の基礎研究予算は少なく、国立大学への研究費配分回復も見えない。今後変わるのか。
- 古川先生のいう“開放型”で国内外と連携・協働することと、“日本(大学)”の勝ち負けの重要性をどう考えるか。
- 研究は「頭のいい人が難しいことをひたすらやる」というイメージを変えるべき。
- 「余裕」が必要:国や経済界主導の研究に取り組みつつも、思いついた研究を試せる時間的余裕を制度的に作るべき。
- AI for Scienceを進めるには、AIが得意な研究者と、他分野でAIを使いたい研究者をつなぐ仕組みが重要。どう実現するか。
- (情報系研究者から)AIは冬の時代が長かった。流行分野の後追いにならぬよう「選択と集中」ではなく基礎研究を幅広く支援すべき。 AI分野で大負けしている前提で、AIに賭ける作戦は妥当か。各国が同様に政策誘導する中で比較優位はあるのか。
- 大学の教育カリキュラムをどう考えるか(内容を濃くするのか/分野を集中させるのか等の設計思想は)。
- 必要なもの:潤沢な研究資金、使いやすい研究環境、研究支援体制・人材の充実、研究で生活できる社会的安心感、社会の科学研究への関心涵養、基礎研究支援の拡充。
文責 三輪秀樹
