東京都立雪谷高校での科学教室第8回

雪谷高校での科学教室を1月17日に実施しましたので、ご報告いたします。

企画概要

・趣旨:体験を通して、科学への興味関心を育み、理系科目の面白さに気づく時間を提供する
・開催頻度:約月1回
・実施場所:校内の理科室や近隣の施設
・講師:JAAS会員や協力いただける大学の先生/各回異なる講師にて実施
・内容:講師の専門かそれに近いところの内容で、かつ高校生が手を動かして楽しめる内容

第8回

実施日時:2026年1月17日(土)13:00~15:00

<タイトル>
国立科学博物館見学会

<講師>
井上 優貴 先生
台湾国立中央大学 准教授

●略歴
台湾の国立中央大学物理系で准教授として重力波科学を研究する。
台湾の LIGO-Instrumentation group のリーダーとしてアメリカの LIGO という実験で重力波の精度についての研究をしている。
SNS を通じた国際的なサイエンスコミュニケーション活動も積極的に行なっている。 Instagram https://www.instagram.com/ncu_inoue_lab/

担当講師所感

今回、国立科学博物館における見学企画に講師として参加する機会をいただき、大変有意義な時間となりました。科学館の展示は、研究成果そのものを紹介するだけでなく、その背景にある発想や試行錯誤の過程を伝える重要な役割を担っていると改めて感じました。一方で、特に物理分野の展示は、事前知識の有無によって受け取られ方が大きく変わる側面もあり、研究内容と来館者との距離をどのように縮めるかが重要であると再認識しました。

今回の見学では、高エネルギー実験、測量技術、天文観測技術に関する展示を題材とし、事前に募集した学生からの疑問に回答する形で解説を行いました。個々の装置や実験結果を個別に紹介するだけでなく、それらが多数の研究者や技術者の協力によって成立していること、そして多くの人の知識や技術が積み重なることで物理学が発展してきたことを中心に説明しました。私自身、重力波観測をはじめとする国際共同実験に関わる中で、ひとつの成果の背後に数多くの専門分野や技術が支え合っていることを日々実感しています。今回の見学を通して、研究は個人のひらめきだけでなく、多様な人々の協働によって前進していく営みであることを感じてもらう機会になっていれば幸いです。

また、同行された高校の物理の先生方が、展示内容を授業で扱う物理概念と結び付けながら補足説明をしてくださったことも非常に印象的でした。教科書で学ぶ公式や原理が、実際の研究現場においてどのように用いられ、どのように現実の問題を解決しているのかという「生きた物理」へとつながる場面が多く見られ、参加者にとって理解を深める良い機会になったのではないかと感じています。

参加された生徒の皆さんや先生方が、展示の前で自由に意見を交わしながら理解を深めていく様子が印象的であり、専門分野に限らず、科学に対する興味や好奇心を広げる機会になっていれば大変嬉しく思います。科学教育においては、必ずしも専門的理解に到達することだけが目的ではなく、「なぜ研究が行われているのか」「どのように新しい知識が生まれるのか」を感じてもらうことが重要であると考えています。

今回のような機会を通じて、研究と社会、教育現場と最先端研究との距離を少しでも近づけることができれば幸いです。本企画を準備・運営してくださった関係者の皆様、ならびに参加してくださった皆様に心より感謝申し上げます。

井上優貴


台湾で現在准教授を務めておられる井上優貴さんは、世界各地の科学館を巡り、各展示の魅力をSNSでわかりやすい言葉で発信されています。今回は国立科学博物館に集合し、地下3階の展示を見学しましたが、このフロアの展示は、個人的にはやや難易度が高いと感じてきました。入口付近にはノーベル賞受賞者の研究内容をまとめた展示があり、その奥には物理系(重力波など)の展示が続いています。繰り返しになりますが、あくまでも個人的な感覚として、事前知識がないまま見学すると、魅力を理解しにくい展示が多い印象です。

例えば、ノーベル賞の価値は誰もが知るところですが、受賞に至るまでの道のりや、その後の研究の発展について、整理された説明文を読むだけでは、「すごいね」という感想で終わってしまいがちではないでしょうか。また、粒子加速器などの最新設備や、物理系学部で「定番」とされる測定機器も、知識がないとどれも同じように見えてしまいます。

しかし当然ながら、それぞれの研究の背後には、多くの研究者が昼夜を問わず工夫や試行錯誤を重ね、発見に至った物語があります。今回、そうした背景を言葉にして伝えてくださる井上さんの解説によって、展示は一気にワクワクするものへと変わりました。ノーベル賞受賞者同士のつながり(あるいは、つながっていないという事実も含めて)、大型研究施設を支える地元の職人技を持つ方々の存在(専門職に限らず、パートタイムで関わる方々も含めて)、さらには「古い」とされがちな技術の価値を再認識する話など、多様な視点からの解説のおかげで、研究者の息づかいが感じられ、研究の世界を立体的に想像できるようになりました。

科学教室の参加者は、必ずしもその分野を専門に目指す生徒ばかりではありません。私自身のように専門知識が十分でない参加者も多い中で、皆が素直に新しい世界を楽しんでいる様子が見られ、今回も非常に良い時間になったと感じています。

また、同行してくださった高校の先生方が、目を輝かせながら展示について解説される姿も印象的で、先生と生徒のコミュニケーションの幅が広がる機会にもなったのではないかと、嬉しく感じました。

授業や海外出張の合間を縫って快くご協力くださった井上優貴さんに、心より感謝申し上げます。

宮原聖子

左:JAASの名誉フェローである梶田隆章さんに関する解説をする様子
右:KEKB加速器とBelle測定器の展示を見学する様子

一つ一つの測定器と最先端の論文の話を織り交ぜてお話しいただく様子

参加生徒と井上優貴さんにて記念撮影

※写真は、すべて国立科学博物館内で撮影し、博物館ならびに被撮影者の許可をいただいた上で掲載しております。

文責者:宮原聖子