日本版AAAS設立準備委員の高野です。先日よりメールやTwitterなどを通じてお知らせしていた通り、7月23日(祝・金)に「第2回意見交換会」を開催致しました。一般からご参加頂いた21名の方々に加え委員27名、延べ48名で意見を交換する機会となりました。
前回の開催では、日本の科学が抱える問題点や、それらを解決するために私たち日本版AAASに出来ることはなにかを、様々な観点から議論しました。多様なご意見を頂き、私たちにとって非常に有意義な機会となりましたが、その一方で、様々なトピックについて議論をしたため、心ゆくまで議論に望めなかったという声も上がりました。そこで今回は話題をある程度限定し、大阪大学の標葉隆馬さんをお招きして「第6期科学技術・イノベーション基本計画」について議論しました。
標葉さんに「第6期科学技術・イノベーション基本計画」とその経緯について発表して頂きました。その後、参加者は8つのグループに分かれ、それぞれが発表を聴いて感じたことなどについて、1時間にわたり議論を行いました。最後に、全グループが集合し、それぞれのグループが議論の内容を発表し合うことで、対話を通じて感じたこと・新しく気づいたことについての情報を共有しました。 以下にそれぞれのグループにおける議論をまとめました。クリックしていただくことで、議論のまとめと写真が表示されます。どのグループでも多くの意見があがり、活発な議論がありました。
【ルームの中で行われた対話の内容】
- 若手支援ではリカレント支援の取り組みが弱いと感じた。リカレントでアカデミアに残っても科研費などを取り難い仕組みになっており、キャリアパスの多様性を疎外している。
- テクノロジーアセスメントについて国内ではELSIの調査、各国の政策の調査も行っているが、人もお金も仕組みも不足している。企業等でも調査しているが、情報は共有できていない。欧州でも人手不足で、外部のPhD取得者へ調査委託などを行い政策立案に活用している。
- コンセプト型の研究は投資対効果が評価されると考えられる一方で、そうでない論文など以外の評価指標をどう考えるのかが重要になる。
【対話の中で皆で新しく見つけられたこと】
- 研究対象の選択や研究成果の社会実装という、ELSIを含めたテクノロジーアセスメントの手法や取り組みを社会指標としてどう議論するか重要である。
- テクノロジーアセスメントの議論では専門家だけでなく、一般の人々や非専門家からのどのように意見を聞くかという方法の議論が肝要である。
【ルームの中で行われた対話の内容】
- 科学技術・イノベーション基本法における「人文科学のみ」の除外規定が撤廃されたことにより、人文社会系も巻き込まれる形になった。人文社会系の知見も重要なので、それが包摂されたのは結果的に良かったのではないか。
- たとえば、科学が社会に対してどういう影響を及ぼすかといった価値判断を伴う問題については、人文社会系の知が必要になる。
- また、ELSIやSDGsなどの現代的な議論を積極的に取り込む動きが出てきたこと自体は評価できる。
【対話の中で皆で新しく見つけられたこと】
- 「総合知」といっても、すべてをカバーすることはできない。科学の多くの分野で社会の問題をいかに解決するかが課題となっている。専門家だけでなく社会自体の意識が変わらないとうまくいかない。そういう点で分野横断研究や学際領域は重要だ。
- しかし、現状その目利きができる人、あるいはそういう人材を養成できる人が少ない。
【指摘された問題点】
- 教育の現場と研究の現場とで科学教育についての認識のギャップが大きい。
- 大学と高校までで、重視しているポイントへのフォーカスに差がありすぎる;「知識ベース」では世界的にも高水準である一方で、大学以後で重視すべき「議論ベース」での教育は不足している。
- 興味を持たせる機会の提供が重要であるが、その場での「知識と議論のバランス」が取れていない。
- 学校や教員ごとに行われている教育内容が多様なことも考えると、そもそも「科学教育がうまくいっているかどうか」を評価することの難しさがある。
【対話の中で皆で新しく見つけられたこと】
- 選択と集中についてなど、昔から同じ問題が繰り返し議論されていて、いつまでも解決されてない、と感じる。それでも、研究者自身が諦めずに問題提起し、改善する努力を続けることが重要。
- 問題解決のために、JAASから提言をまとめて出せるようになってほしい。
【ルームの中で行われた対話の内容】
- 研究者がプロジェクト型研究のデザインをどの程度できるのか。ビジネスとの関係性を持たせながら予算を獲得していく必要がある。
- 基礎研究の積み重ねの上で発展させられる研究がある一方、プロジェクト型で研究を行い、その結果で評価されるようになると、基礎研究などの結果がすぐに出ないような研究は評価が困難である。評価指標が多様である必要がある。
【対話の中で皆で新しく見つけられたこと】
- 基礎研究などの評価の方法を議論していく必要がある。例えば、哲学や社会学などの分野ではイノベーションに対してどの研究がどのように評価されていくのか、評価軸を確立する必要がある。そのためにもプロジェクト型で研究をしていく際に、研究に関してコーディネートしていく人がいると良い。
- 短期的に評価するだけでなく、終身雇用のように10年単位で3、4回という長期スパンで評価をしていくシステムが必要である。長期雇用の目線を学術に入れていくことで腰を据えた研究ができるのはないか。
- プロジェクト型研究に関しては短期指標で評価を行い、長期の研究テーマに関して評価を行う長期指標と二本立ての指標がアクションアイテムとして必要である。
- イノベーションに対して肯定否定するような評価軸ではなく、社会全体の課題は科学に関わることが多いことを踏まえ、対話を通して評価をしていくことも必要である。
【ルームの中で行われた対話の内容】
- 名称は多々あれど、寄せ集めになっている感は否めない。
- リスクヘッジの観点から、挑戦的研究にチャレンジ・支援できていない。
- 業界をいかに盛り上げていくかという点で、限界がある。
- 異分野や産学官の間を取り持てる人材(スーパーマン的な?)について、内部での育成にしても財源の問題、外部から呼ぶにしてもコネクション等の課題がある。
【対話の中で皆で新しく見つけられたこと】
- URAの位置づけや、実装にする際のいいカタチの展開の仕方が重要。
- 学際的でないものについて、論文で評価される基礎研究は既存の評価でも大丈夫。人文系をどう評価していくか。ELSIが都合のいいような活用になっていないか。おいてけぼりの分野も救うシステムが必要。
【ルームの中で行われた対話の内容】
- 幸福論が重視されているところ
- プロジェクト型への批判もあるが、プロジェクトが立たないとうまく科学主導ができない。その上で基礎研究を育む必要がある。
- 科学技術政策で企業が元気になる必要がある。
- 高齢の方がうまく離脱していく仕組みを作ることで、若手のポストができるようにすべき。
- そのためにベンチャーが活発になるようにしたほうがいいのでは。テクノロジーベースではうまくいくが、ビジネス志向が足りない。
【対話の中で皆で新しく見つけられたこと】
- 多様な価値観がある中でさまざま幸福を追求することで価値のある研究ができる
- プロジェクト型の研究で目先の成果を作り、その資金で人文系の研究や基礎研究を将来のために行なう事が重要
- ベンチャー企業を日本でも大企業へ育てる環境が必要、ビジネスとして成立させるためには経営学の知識やノウハウも教育の一環として身につける機会を作る必要がある
【ルームの中で行われた対話の内容】
- JSPSには同じような研究者が複数の予算を獲得しており、その評価が正しく評価されていない。
- 総合知を進める上で、異分野同士のディスカッションのみならず、同じ組織(学会)内でもディスカッションが足りない。
- トップダウンでの意思決定がなされているのが問題であり、これもJAASで取り組める課題かもしれない。
【対話の中で皆で新しく見つけられたこと】
- JSPSに特定の研究者グループに予算が偏らないように、JAAS(代表)からJSPSに強く働きかける必要性(新たな評価システムを提案する)。
- 今後は提案するだけではダメで(今まで個別に行ってきた)、実際にアクションしなかればいけない時期になっている(でなければさらに取り返しがつかなくなり、国力が衰退する)。
- JAASにおける意思決定はボトムアップで行われるべきである。
【ルームの中で行われた対話の内容】
- どういう社会を目指して研究すれば良いのかがよくわからない
- 一度研究がヒットした人や、たくさん論文を出版している大御所に対して、集中的に資金や機会が巡っているのではないか?
- 任期つき雇用は、社会で見られる「雇用の流動性」と同じものであり、万年助教のようなポジションが許される状態と比べてどちらが良いのか?
- 女性のキャリアパス (女性がいつ産むかを考えなくていい、業績・キャリアの穴を考えなくていい制度をつくる必要がある)
- 科学コミュニケータは、東北大の文化財資料の復元など、世界的評価や学術的業績 (e.g., 論文出版) に関わってこない活動の社会的価値を一般に伝えることも仕事のひとつである
【対話の中で皆で新しく見つけられたこと】
- 研究者が何を目指して活動すべきなのかを明確化できれば (政府としての指針があれば)、貢献の仕方がわかりやすくなる
- 「この分野ならこの人」と選択するよりも、ランダムに選択する方がよい?
- 「もしアカデミアにおいても流動性のある雇用が続く (進む) のであれば、自分自身で研究費を取る能力を身に付けるべき。能力の更新・向上を常に行う必要がある。一方で、任期があると、キャリアプランが上手く作れないかもしれないので不安も残る
参加者へのアンケート結果
ご参加頂いた一般の方々のうち、19名がアンケートにご回答くださいました。主要な項目について記述します。
- 【ご参加された理由を教えてください。(複数選択可)】
12名(63.2%)が提供された話題への関心からご参加くださったことがわかりました。次いで、「日本版AAAS設立準備委員会の活動に興味があったため」「対話を通じて意見を交換したかったため」をそれぞれ8名(42.1%)の方が選択されました。 - 【総合的な本イベントの満足度】
1(とても不満足だった)から5(とても満足した)のスケールで満足度を評価して頂き、平均値は4.05 となりました(下図1)。
- 【項目ごとの満足度】
「とても不満足だった」「不満だった」「普通」「満足した」「とても満足した」について評価して頂きました。総合的な満足度に比べて項目ごとの分散は大きいものの、平均して「普通」を下回る項目はありませんでした。総合的な満足度と同様の数値換算で、すべて項目におけるすべて回答の平均値は3.53でした。
【今後の開催時の参加意思】については、19名(100%)全員が「はい」を選択されました。
CONCLUSION
第二回意見交換会では、十分に議論を深めるだけの時間がなかった前回開催の反省を活かし、限られたテーマについて議論を行いました。結果として、参加者の皆様により満足して頂くことが出来、おかげさまで私達日本版AAAS設立準備委員会にとっても有意義な機会になりました。今後も定期的に開催する同様のイベントを通じてわたしたちの科学振興活動について知り、ご賛同・ご参加いただければ幸いです。
話題提供者・標葉さんのコメント
科学技術・イノベーション基本法、そして第6期科学技術・イノベーション基本計画の中で、「総合知」をめぐる議論や、様々な学問に関わる評価の在り方についての問題点を幅広い観点から議論を頂けたことの意味は大きく、政策研究者の一人としても宿題や洞察的な知見をたくさんいただいたと感じました。いくつか頂いた論点の中で例えば下記のようなテーマに関連することなどについて、引き続き考えていきたいと思います。またそのような議論の場がJAASの場でも定常的にできていくと益々良いように感じました。
- 研究者側からのボトムアップでの提案の在り方と具体的なアクション
- 公的研究資金の「より良い且つ幅広い配分の仕方」
- 科学技術政策の中における企業活動の関係性についての洞察と政策形成
- リカレント教育の在り方との接続的論点も
- 若手研究者のキャリアパスと、世代ごとに抱える課題の明確化と改善への議論
- URA等の専門職の方の活用とそのより良い位置づけの仕方