プロの研究者、高校生の研究発表に学ぶ JAASキックオフミーティング振り返りシリーズ第9弾

はじめまして!JAAS会員の坂内博子(ばんない ひろこ)です。普段は大学で、生物物理学・神経科学の研究を行っています。


さて。夏休みも中盤にさしかかってきました。子どもの頃は夏休み、終わらない宿題の山を抱えてそろそろ焦り始めていた頃です。その中でも「自由研究」は最も困り、最後まで残していた宿題の一つでした。大人になって、研究を職業とするようになった私ですが、そのころの自分は何を研究していいのかがわからなかったのです。その頃の自分に「研究ってこういうものだよ」ということを教えることができるとしたら、今回のJAASのキックオフミーティングのことを伝えたいです。

プロの研究者が高校生の発表に学んだこと

今回のJAASキックオフミーティングでは、オンサイト・オンラインのポスターセッションでは、高校生による研究発表がありました。

ヨーロッパの南東で地中海に突き出たバルカン半島の民族共生の現状を、政治・文化というハードとソフトの両面から考察する研究内容は、「相互理解はもちろん大切だけど、いきなり相手の全てを受容することを強制するのではなく、信頼関係を築きながら少しずつ自己開示・受容を高めていく」という、この地域に限らず多様なバックグラウンドをもつ人間同士が平和に共存していくために重要な課題を提示するものでした。多様なメンバーが参加するJAASの未来にとっても、この研究で述べられた考察はとても参考になるものでした。

現代の日本人に心地よい風鈴の音色の要素を探求した研究では、主成分分析という統計解析手法を用いて、「心地よさ」に影響する要素を見出していました。問いの立て方、調査方法、考察、大変優れた研究であったと思います。今後は風鈴の形や素材の研究に展開されるとのことで、今後の研究の発展が楽しみです。

木のような硬い素材と糸のような柔らかい素材が引っ張る力が釣り合って安定する「テンセグリティ構造」についての研究では、実験材料としてレゴブロックを使うという発想に感銘を受けました。身近な材料で実験系を組み立てるセンスのよさ、ぜひ自分の実験にも取り入れたいと思いました。

これらの高校生の方々の発表には、共通点がありました。

(1) 「知りたい」という純粋な好奇心に発する研究であること

(2) 高価な材料や手法を用いなくてもできる研究をデザインしていたこと

そして、

(3)社会科学・自然科学の先端的知見や手法をふまえていたこと

です。

中でも、(1) 「知りたい」という純粋な好奇心に発する研究 というのは、夏休みの自由研究はもちろんのこと、大人が職業として行う研究にもとても重要なことなのだと思います。

いつも心に「ナンデナン」を

妖怪ウオッチというアニメに「ナンデナン」という妖怪が出てきます。この「ナンデナン」に取り憑かれてしまうと、気になることをどんどん掘り下げて質問してしまうのです。だれの心の中にも、「ナンデナン」が住んでいた(いる)と思うのですが、多くの場合、いつしか問いを発することをやめてしまいます。

名古屋大学千種キャンパス、学食のナン。職人さんがタンドール窯持参で焼いてくれてました。美味しゅうございました。

過去の自分に言いたい。自由研究に困った場合は、ぜひ自分の内なる「ナンデナン」の声に耳をかたむけなさい、と。それこそが、「純粋な好奇心」だからです。「ナンデナン」の声は、疑問に対する答えが得られるほど強くなってきます。

従って、答えを得るための手法、すなわち(2) 高価な材料や手法を用いなくてもできる研究の方法、(3)社会科学・自然科学の先端的知見や手法は、社会の中で広く共有されるべきだと思っています。これは、JAASが目指す科学コニュニケーションであり、これはまさに、大学や研究所の研究者だけでなく、企業や市井の研究者も名を連ねるJAASの理念にも共通することです。市民の科学、いわゆるシチズンサイエンスです。

今回のキックオフミーティングでは、オンラインという形で、日本各地から高校生の皆さんに発表をしていただけたことも、とてもよかったと考えています。私は18歳まで地方に住んでいましたので、高校生の頃は東京で行われる科学イベントについては何も知りませんでしたし、知っていたとしても費用の面から参加することは大変難しかったでしょう。コロナ禍で広まったオンラインでの科学コミュニケーションは、どこに住んでいる子どもでも同じように参加できるという点で優れているため、今後も続けて欲しいと強く思っています。

みなさんの心の中に住んでいる「ナンデナン」が元気になれるような機会を作っていけるようなJAASでありたいと思います。みんなの中の「ナンデナン」が元気になれば、日本の科学が元気になれるんじゃないのかな?

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