桝太一さんとサイエンスコミュニケーションを考える JAASキックオフミーティング振り返りシリーズ第8弾

みなさん、「サイエンスコミュニケーション」ってご存じですか?

「科学のおもしろさや課題を人々に伝え、ともに考えることを目指した活動」と説明されることがあります。

元日本テレビアナウンサーの桝太一さんが大学研究員としてサイエンスコミュニケーションの研究と実践に新たな挑戦を始めるということで大きな注目を集めています。

社会と科学が互いに切り離せない存在となった今、両者をつなぐ対話のあり方が重要になっています。

6月20日(月)に開催されたJAASキックオフミーティングのオンライン企画「日本のサイエンス・コミュニケーションのリアルな現在地を、新参キャスターが赤裸々に聞く!」は、「日本のサイエンスコミュニケーションを引っ張ってきた方々と、今後の日本のサイエンスコミュニケーションについて本音で語り合いたい」という桝さんの想いから実現しました。

当日は研究者や研究支援員、学校の先生、学生、NPO団体職員、フリーランスなど、幅広い職種・世代の方々、約300名にご参加いただき、2時間にわたって濃密な議論が行われました。

座長 桝 太一(同志社大学 ハリス理化学研究所) 
演者 渡辺 政隆(一般社団法人 日本サイエンスコミュニケーション協会)
小出 重幸(日本科学技術ジャーナリスト会議) 
横山 広美(東京大学 国際高等研究所カブリ数物連携宇宙研究機構/学際情報学府) 
小泉 周(自然科学研究機構)

上段:左から桝さん、渡辺さん、小出さん、下段:左から横山さん、小泉さん

冒頭に桝さんが「日本における『サイエンスコミュニケーション元年』から20年が経とうとしている今、日本のサイエンスコミュニケーションがどんな流れを経て、今どんな状況にあるのか、次の10年、20年はどんなことに取り組んでいけばよいのか、演者のみなさんに生取材していくような感覚で進めていきたい」と口火を切り、オンライン開催でありながら、同じ会場にいるかのような臨場感が生まれ、期待が高まりました。

サイエンスコミュニケーション元年

サイエンスコミュニケーションが芽生えたのは、イギリスでBSE問題(狂牛病問題)により科学や科学者への不信感が表出した1990年代ごろであることが小出さんから紹介されました。

渡辺さんからは「日本では2004年の『科学技術白書』で科学と社会のコミュニケーションの重要性、サイエンスコミュニケーターの必要性が言及されたことでサイエンスコミュニケーションが実際に動き始めた」と説明がありました。

コロナ禍でのサイエンスコミュニケーション

続いて、桝さんが「コロナ禍を経て、サイエンスコミュニケーションは何が変わったか?」と問いかけました。

演者のみなさんから、オンラインイベントが普及したことで全国どこからでも参加できるようになったこと、研究者からのSNSでの発信が増えたこと、それによって情報が溢れて何を信じればよいのか分からない「インフォデミック」が生じていること、などが挙げられました。

横山さんは「何が正しいのか分からない中でコミュニケーションする難しさ」、「科学的知見が不完全な『作動中の科学』における科学的助言システムの必要性」が浮き彫りになったことを指摘しました。

さらに、コロナ禍で最前線にいる専門家につくサイエンスコミュニケーターが不在であったことでディスコミュニケーションが起こり、専門家が追い込まれてしまったことは制度的な問題ではなかったかという議論が行われました。

何のためのサイエンスコミュニケーションか?サイエンスコミュニケーターとは誰なのか?

その後、「何のためのサイエンスコミュニケーションなのか」、「サイエンスコミュニケーターは誰が担うべきでどんな役割なのか」について活発な議論が行われました。

さまざまに議論が交わされる中で、小泉さんらが「サイエンスコミュニケーションは科学者一人ひとりが意識してスキルとして身につけるべきものであり、そうした人々を横に繋いでいく役割としてサイエンスコミュニケーターが必要なのではないか」と意見を述べました。

そして、さまざまな場所で活躍するサイエンスコミュニケーターの事例が紹介され、今後一層活躍の場が広がることへの期待が改めて共有されました。桝さんが新聞やテレビを通してサイエンスコミュニケーションをされているのも、まさにそうした事例の一つであり、多くの注目が集まっています。

サイエンスコミュニケーションのためのプラットフォーム

最後に、桝さんが「サイエンスコミュニケーションに携わる人たちが経験や理論などを緩く共有できる場があるとよいのでは?」と問いかけました。

渡辺さんや小泉さんらが「縦割り文化の日本ではそうした場がなく、サイエンスコミュニケーションに携わる人たちがつながれるようなプラットフォームが必要である」と指摘しました。そこで、まさにJAASがそうしたプラットフォームとして日本で育っていってほしいという声が上がり、私としてはとても嬉しく思いました。

JAASが範とするAAAS(米国科学振興協会)は、研究者、サイエンスコミュニケーター、ジャーナリスト、政治家、子どもを含む一般市民など、とても広い意味でサイエンスコミュニケーションに携わる人たちが集まる場になっています。

現在JAASにはYoutuberやVTuber、芸人や俳優、記者、科学館や大学・研究機関所属のスタッフなど、さまざまな形でサイエンスコミュニケーションに取り組む人たちが集まっています。こうしたメンバーが緩やかにつながることで、ここに来ればさまざまに活躍するサイエンスコミュニケーターと交流できる、サイエンスコミュニケーションについて知ることができる──そんな場として、日本のサイエンスコミュニケーションを盛り上げていければいいなと感じました。

この座談会の模様は東京化学同人「現代化学」9月号(8月中旬刊行)に掲載予定です。また、「桝 太一が聞く 科学の伝え方」もあります。サイエンスコミュニケーションについてもっと詳しく知りたいという方は、ぜひそちらもご覧になってください。

(文責 小野 悠)

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