書き手:JAAS研究環境改善ワーキンググループ 意見交換会参加者一同
2023年2月24日、文部科学省(文科省)科学技術・学術政策局人材政策課・人材政策推進室・岡貴子室長含め4名の担当者の方と、JAAS研究環境改善ワーキンググループ(WG)・三輪秀樹リーダー 他8名のメンバーで意見交換会を行いました。
労働契約法特例により、労働契約任期付き研究者らは通算で勤続10年を超えた場合、無期雇用契約に転換できる権利が発生します。しかし現実としては、その前に大学や研究機関が雇い止めして無期転換を回避するケースが日本全国で問題となっています。特に法律が施行されて10年目年度末となる現在は、多くの大学や研究所で当事者となる研究者・教員が3月末に雇い止めされるのではないかと不安を抱えています。
JAAS研究環境改善WGでもこれを喫緊の課題としてこの問題について議論を重ね、文科省や国会議員の方々との対話を続けてきました。このような状況の中、文科省は実際に無期転換の権利が発生する当事者の雇用実体把握のため「研究者・教員等の雇用状況等に関する調査」を行い、2023年2月7日にその調査結果、および各機関に改めて法の趣旨にそった適切な対応を促す依頼文を発表しました。今回のJAAS研究環境改善WGとの意見交換会は、この調査を受けて行なったものです。
本意見交換会でJAASのメンバーが特に強調したのは、40代〜50代研究者のキャリアパス対策についてです。
(1) 研究でかなり高い実績をあげ大型研究費を取得している人ですら、この「10年雇い止め」の影響で失業の危機にさらされていること。
(2) 科学技術・イノベーション基本計画(第6期)に書かれている「将来的に大学本務教員に占める40歳未満の教員の割合が3割以上」 といった数値目標により、既に若手ではなくなった当事者である研究者が雇用を敬遠され、結果的に大きな苦境に陥っていること。
(3) そのような窮状を見た学生は長期的なキャリアパスに不安を感じ、研究業界を避ける傾向が強まっており、現在の若手優遇策にもかかわらず若手が研究者を避ける傾向に歯止めがかかっていないこと。
この問題は文科省としてもとても重要な問題だと捉えているものの、40代〜50代の方々については文科省としては具体的な施策・取り組みは弱くまだ未検討で、これからまさにどういったことが必要か、様々な声を聞きながら検討する段階とのことです。文科省としても大学などでの良い取り組みは知りたいので情報があれば提供いただきたい、また、今後の取り組みのために何が必要か検討していきたい、とのことでした。
我が国の大学の研究プロジェクトでの雇用は主にジョブ型であるのに対し、企業での雇用は主にメンバーシップ型に該当することが多いことなどから、両者がうまくマッチせず産学の頭脳循環がうまく回っていないという問題点の指摘もありました。JAAS研究環境改善ワーキンググループでは、かねてより、企業はリスクなく研究人材を雇用することができ、研究者側は雇用が安定するという研究者人材プールシステムの仕組み*1 を提案しています。この仕組みの提案については、文科省側からも魅力的で面白いものと感じられ、企業大学ともに良いマッチングができて、双方にとってメリットがありそう、とのご評価をいただきました。
40代〜50代の研究関係者が幸せでないと、研究者を目指す次世代は育ちません。JAASとしては、40代〜50代で困っている研究関係者も、大学や社会の中で活躍できるような対策・仕組みを、JAAS会員はもちろん、ネットの皆さまや文科省の方々とともに検討していきたいと思います。
また近年、日本の科学を元気にするための政策を実現するために、政治家・省庁の方々が現場の声の数々をお聞きいただき施策が実施される事例が増えているのですが、残念ながら当初の要望・期待と施策がマッチしていないことが多々あることが話題に上がりました。
例えば、若手問題の改善のために、大学の若手比率の数値目標が設定されましたが、これが任期付きの40代〜50代の研究関係者の阿鼻叫喚を招き、それを見た若手が参入をさらに躊躇するという事態が生じてしまいました。こういったことは、施策案がある程度できた段階(パブコメなどにでてくる前の段階など)で再度現場と対話することによって改善するはずなので、ぜひお願いしたいと訴えました。
文科省の方からは、国としても施策を出すときに各所から様々な意見を集めながら最終的な施策ができるのだが、その中で当初に意図していたものと違うものとなってしまうこともあるのかもしれない、という、施策を実際に立案し実現する立場ならではのコメントがありました。できるだけ本来の趣旨にあったものを施策として出すことを心がけたいとのことですが、JAASとしても、「コレジャナイ」政策にならないように注視しつつ、適宜、意見・要望をお伝えしていきたいと思います。
日本の研究力を向上させるためには、未来を担う若手研究者が研究と自分のキャリアパスに長期的に明るい希望を持てることが必要です。現役の研究関係者が幸せに研究生活を送る姿が見えないと、多くの若手が研究者の道を選ぼうとは思わないでしょう。現在、40代〜50代で困っている研究関係者が、大学や社会の中で活躍できるような対策・仕組みを、JAASは文科省やさまざまな機関と一緒に検討していきたいと思います。この政策については、まだ白紙状態です。
JAASでは2023年10月7~9日に秋葉原DXで年次総会2023を行いますが、そこでキャリアパス関連の企画も行い、政策に活かせるアイディアを議論する予定です。ご興味のある方は、企画に関するご意見やアイデアを「JAASツイッターメンバー」コミュニティで受け付けますので、ぜひお願いいたします。
*1 研究者人材プールシステムの仕組み:大学コンソーシアムや資金配分機関などで博士の終身雇用を行い、全国の大学・企業などへ派遣し、派遣先の資金でその人件費を支出するような仕組みのこと。「「10 兆円規模の大学ファンド」と地域中核・特色ある研究大学総合振興パッケージの使途についての提言」 (日本版AAAS設立準備委員会/日本科学振興協会・研究環境改善ワーキンググループ)の11〜12ページを参照)