現代社会は、気候・エネルギー問題、健康・医療に関する諸問題、貧困や社会的分断など、多くの難題に直面しています。これらに対処し、人類のウェルビーイングを実現するために、科学技術は不可欠です。その基盤となる学術研究は、全体としての中・長期的な価値は莫大であることが歴史的に証明されていますが、個々の研究のメリットは予測が困難なため、一部の研究に限られない幅広い公的支援が重要です。
日本学術振興会および文部科学省の科学研究費助成事業(学術研究助成基金助成金および科学研究費補助金、いわゆる科研費)は人文学、社会科学から自然科学までの全分野にわたり、基礎から応用までの学術研究を広く助成する競争的研究費ですが、総額が不足しているために採択率が低く、多くの優れた研究提案が不採択となり、採択された場合も額が十分でないことがしばしばあります。その結果、様々な研究費の申請や審査が何度も行われることになり、申請者と審査委員の双方が疲弊し、慢性的な研究時間不足が生じています。科研費の拡充と採択率の改善は、科学技術力の向上を通じて、我が国の諸問題の解決と文化・経済の発展、ひいては人類のウェルビーイングの実現に貢献することが期待できます。
一方、科研費より安定的で、さらに効果が高いともいわれる国立大学法人運営費交付金等にもとづく非競争的な研究費も、長年の減少により著しく不足しており、日本の基礎研究にとって致命的な問題となっているとの指摘もしばしばなされています。今後、科研費と合わせ、運営費交付金等にもとづく研究費や、その他の研究資金も含め、日本の研究費のあるべき姿についての対話を活発化し、理想的なあり方に近づけていくことが重要と考えます。
JAASの研究環境改善ワーキンググループ(WG)による「10兆円規模の大学ファンド」等についての提言では、いわゆる10兆円ファンドに限らず、科研費の充実と改善も含め、日本の基礎科学技術研究のあるべき姿について提案を行なっています。7月には「Neuro2024 ランチョン大討論会 〜私達が望む神経科学の研究環境―よりよき現在と未来へ向けて」を後援・開催すると同時に、社会連携ワーキンググループと研究環境改善ワーキンググループが共同で『JAAS緊急ミーティング 日本の研究力に求められるものはなにか? ~科研費増額嘆願署名をきっかけに考える「日本の科学をもっと元気に!」』と題して、アカデミアだけでなく行政や、普段科学研究に直接触れる機会が少ない一般の方々も含むコミュニケーションの場を設けることを試みました。
私たちはこれからも納税者の皆様をはじめとする様々なステークホルダーの方々との対話の場を通じて、日本の科学の振興に努めてまいります。引き続き皆様のご支援・ご参加を賜りますよう、お願い申し上げます。
日本科学振興協会(JAAS) 研究環境改善WG・社会連携WG
参考リンク(外部サイトを含みます)
・科学研究費助成事業(科研費)(日本学術振興会)
・「10兆円規模の大学ファンド」等についての提言(日本科学振興協会(JAAS) 研究環境改善WG)
・「日本の未来のために、 科学研究費助成事業(科研費)の増額を求めましょう!」(学会連合の有志連合)
・「議論のきっかけとしての科研費増額署名を!」(日本科学振興協会(JAAS) 研究環境改善WG note)
・Neuro2024 ランチョン大討論会 〜私達が望む神経科学の研究環境―よりよき現在と未来へ向けて
・JAAS緊急ミーティング 日本の研究力に求められるものはなにか? ~科研費増額嘆願署名をきっかけに考える「日本の科学をもっと元気に!」
・緊急ミーティング実施報告書