「AI時代における研究への信頼」円卓会議の報告:Confidence in Researchプログラム(Elsevier)から

2026年5月15日に東京において、「AI時代における研究への信頼」というタイトルで国内の多様なステークホルダーの方をお招きして円卓会議を開催しました。学術出版のElsevierによるプログラム「Confidence in Research」の一環として共催いたしました。JAASは2022年9月に同プログラムで初めて円卓会議を共催し、そこでは主にパンデミックという背景のもと科学に対する信頼についての意見交換が行われました。今回は、日進月歩のAIの進化のもと、科学研究に対する信頼はどのように担保されるのか、またそもそも科学研究や研究者のあり方にどのような変化がもたらされるのか、という問いに対して意見交換が行われました。ElsevierからはAnders Karlsson博士が、円卓会議の趣旨と国際的なアンケート調査について解説しました。その後録画でOECDのDigital Education Outlook 2026において「生成AIと科学研究の変貌」という章を寄稿されたDominique Guellec博士の講演があり、AI時代の研究に関する複数の論点が紹介され、その後の議論の前提として共有されました。第1セッションは田中、第2セッションは宮川、全体討論は原山がそれぞれ進行を担当しました。

AI次代の研究の信頼性はどのように確認できるのか?

第1セッション前半は「AI次代の研究の信頼性はどのように確認できるのか?」という問いかけからはじまりました。透明性や生データの重要性、後から検証できるかどうか(追跡可能性)といった論点が取り上げられました。追跡可能性を担保することそのものや、解釈、説明にもAIを利用することができるというコメントもありました。AIを利用した偽装や、AIによるハルシネーションの懸念がよく話題に上りますが、逆に信頼性を高めるためにAIを活用するということもできるということです。また、AIを含めた研究システムから生み出された成果には説明責任が求められるという指摘がありました。何のための研究、何のための論文発表かという原点を振り返ることも大切という意見がありました。後半の問いかけは「研究活動はどこまでAIに委ねられるのか?」でした。偶然による新しい発見を見出すことはAIには難しいのではという意見や、旧来の医薬品の開発のように治療効果はあるがそのメカニズムは後から説明されるといったケースをどう取り扱っていくのかという議論がありました。囲碁や将棋ではAIは人間を凌駕していますが、なぜAIの選択手が正しいかを説明することは困難です。AIを積極的に導入している研究者からは、AIを利用した研究という話題では人間主体の議論に偏重していること、AIによる研究活動の中に人間をどう配置するかという反対の発想が必要であるという指摘がありました。

信頼性ある研究を支える枠組みとは?

第2セッションは「信頼性ある研究を支える枠組みとは?」という質問から始まりました。このタイミングで平将明衆議院議員が参加し、政府におけるAI戦略について紹介がありました。LLMでは世界のトップに立つことは難しいという認識から、AIエージェントの時代に日本がどのような戦略をもつべきかといった論点へと話が進みました。その後、研究領域の特徴とAIについて議論があり、AI for Scienceのような取り組みは、個々の研究者が自ら所属するドメインで何ができるかを考える良い機会になることが指摘されました。AIの先端的研究は、もはや大学にはないことから、大学における研究自体が大きな枠組みの変更が求められているという認識が共有されていました。日本の文化とAI研究についても複数のコメントがあり、米国と同じようなやり方ではなく工夫が必要という意見もあった。後半は「信頼性ある研究を担う研究者をどう育成するか?」というテーマで進みました。問いかければ何でも答えてくれるAIが存在するという環境において、地道に専門的な知識を体系的に学習することに対するモチベーションをどのように与えるかという論点については多数の意見が出ていました。激変する状況の中、若手の意欲を引きだし、どうサポートするかは重要な課題です。また、多様性、広い視野をもつことも強調され、そもそも人間の「理解」とは何かという深遠な問いかけもありました。

総合討論

総合討論では各セッションで積み残した論点について、意見が飛び交いました。環境の大きな変化がある中、大方針を立てることは困難であり、むしろ不断の軌道修正を行いながら進めるしかない、という思いのパネリストは多くいました。人材育成、教育はその成果を評価することが難しいと考えられてきましたが、AIのサポートのもとデータを蓄積、解析することで、適切な評価に近づくのではという提案がありました。丁度、文科省でAI for Scienceの競争的資金、SPReADの公募が実施されている最中でもあり、審査にAIを採り入れることが研究力の底上げにつながるという議論もありました。AIの学習にはデータが必要ですが、世に出ているデータは期待された結果、興味深い結果に偏っており、ネガティブデータは隠れてしまっています。実験を自動化し、ネガティブデータを積極的に蓄積していくことによって科学研究のあり方は大きく変貌するというコメントがありました。

 

AIをテーマにした議論は世界中で様々な場で行われています。今回の円卓会議では、多様なステークホルダーを集めて、何らかの結論を得ることを目的とするのではなく、議論をあえて発散させることで参加者を刺激することを目的としました。終了後の懇親会でも熱い議論が続けられていました。JAASでは、本日の議論からさらにトピックを絞り込んだ場も今後設ける予定です。

文責:○田中智之、原山優子、宮川剛、冨樫祐一