7月に実施したサイエンストリガープログラムにつきまして、ご報告いたします。
企画概要
・趣 旨:体験を通して、科学への興味関心を育み、理系科目の面白さに気づく時間を提供する
・開催頻度:約月1回
・実施場所:校内の理科室や近隣の施設
・講 師:JAAS会員や協力いただける大学の先生/各回異なる講師にて実施
・内 容:講師の専門かそれに近いところの内容で、かつ高校生が手を動かして楽しめる内容
東京都立小松川高校第1回
<実施日時>
2026年7月10日(金)15:30〜17:30
<タイトル>
実験しない生物学? コンピュータを使った「計算生物学」入門
~化学の中の確率・統計~
<講師>
冨樫 祐一 先生
立命館大学 生命科学部 生命情報学科 教授
理化学研究所 生命機能科学研究センター 客員主管研究員
◇略歴
1975年生まれ。
東京大学教養学部基礎科学科第一、同・大学院総合文化研究科広域科学専攻修了、博士(学術)。
マックス・プランク協会 フリッツ・ハーバー研究所(ドイツ)、大阪大学、神戸大学、広島大学を経て、2021年より立命館大学生命科学部生命情報学科教授。
高校時代は新しいコンピュータの開発を目指していて、理科では化学と地学を選択したが、なぜか現在の専門である生物物理学・理論生物学に行き着いた。
数学・物理を道具として、生体分子から生態系・社会まで手を広げ(すぎ)て、研究に取り組んでいる。

担当講師所感
今回の内容はコンピュータシミュレーションについてでした。これがオープンキャンパスや高校での「模擬授業」であれば、計算科学と様々なシミュレーションについて紹介するだけなのですが(今回もこの部分は大学の基礎的な講義をアレンジしたものでした)、JAASで実施するプログラムらしく、実際に手を動かして考えられるような内容を加えました。
通常であればコンピュータがする作業をあえて人手でやってみることで、その中身に触れてもらう(実はそんなに難しいことをやっているわけではないと感じてもらう)ことを試みました。
題材としては生物というより化学物理や統計力学に関する内容で、少し難しいかなと思うところもありましたが、効率的に進める方法を考えたり、どうなるか推理しながら取り組んでいたりしたのが印象に残っています。
紹介した例のひとつは私自身が大学院生の時にたまたま発見して論文にもなった内容でしたが、ごく簡単なモデルから意外な振舞いが出てくる面白さが少しでも伝わっていれば幸いです。
冨樫 祐一
小松川高校で初めて実施するプログラムでした。
お招きくださった津田先生の緊張も伝わる中、生徒たちとの時間が始まりました。
冨樫さんは、コンピュータシミュレーションがなぜ有効なのか、そしてスーパーコンピュータがなぜ求められるのかを、非常にわかりやすく説明してくださいます。そのため、生徒たちは難しい内容でありながらも、自然に理解していたように思います。
お話だけでは「理解した」で終わってしまいますが、サイコロとトランプを使い、自分たちの手でコンピュータシミュレーションと同じことを再現するワークに取り組むと、一気にその“すごさ”や“可能性”を体感します。
まず、「なるほど、これは面白い」とワクワクし始め、生徒たちの目が輝きます。
次に、意外な結果が出始めると、怪訝な表情になります。自分たちが出した結果を疑い、理由を考え始めます。
そして最後に、コンピュータで計算した結果と照らし合わせることで、深い納得とともに感嘆して終わります。
この感情の動きこそが、サイエンストリガープログラムが大切にしているところです。
小松川高校の皆さんにも、まずはその時間をしっかり感じていただけたと思います。
宮原 聖子

※写真は、すべて高校、被撮影者の許可をいただいた上で掲載しております。
都立雪谷高校第3回
<実施日時>
2026年7月11日(土)13:30〜15:30
<タイトル>
真水と塩水に浮かべた氷のとけ方は同じ?
<講師>
市川 洋
日本海洋教育学会編集委員会委員長
日本海洋学会名誉会員
◇略歴
1949年5月生まれ。
1968年4月京都大学理学部入学。
1978年7月京都大学大学院理学研究科博士課程を修了(京都大学理学博士、学位論文題目:風波のスペクトルの発達機構に関する研究)。
1979年8月から2005年9月まで鹿児島大学水産学部において海洋環境物理学と水産海洋学の教育に従事するとともに、東シナ海、日本南方海域他で黒潮および大気海洋相互作用に関する観測研究をおこなう。
2005年10月から2015年3月まで海洋研究開発機構において深海海面係留ブイを用いた海面熱交換量長期連続観測を実施。2007年1月よりブログ「海洋学研究者の日常」を主宰し、さまざまな海洋科学コミュニケーション活動を行う。

担当講師所感
前半は、3つのグループに分かれて、真水と塩水に浮かべた氷の融ける速さはどちらが速いのかを話し合って予想した結果をその理由とともに互いに説明し、その後、実際に実験で確かめ、最後にコップの中の現象と実際の海洋での現象との関係を解説しました。
3つのグループの各々の予想は異なりましたが、自分の言葉でのびのびと説明していたのが印象的でした。
後半は、海水の密度は塩分が高いほど、水温が低いほど大きくなることを実験で示す方法を考え、実際に確かめてもらいました。
参加した生徒の皆さんが楽しそうに実験に取り組んでいる様子に接し、理科好きを育てたいという先生方のご希望に多少とも応えることができていたのではないかと安堵しています。
市川 洋
昨年と同じプログラムでしたが、今年は新しい受講者がほとんどということもあり、再び市川さんにお願いしました。生徒たちには今年も非常に好評でした。
このプログラムを繰り返し市川さんにご依頼しているのには、理由があります。
往々にして、生徒たちは「答えを当てに行く」ことを求められがちで、自然とその思考が身についており、実験をしていても“正解”を気にする傾向が強いように思います。もちろん必要な姿勢ではありますが、それを重視するあまり、「面白い」「楽しい」という心を見失いがちです。
そんな中、市川さんのプログラムは、気づけば童心にかえって、ほとんど水遊び・色遊びのような雰囲気になっていきます。そしてふと、「あれ? 色水が混ざらないのはなぜだったかな?」と、その理由を思い出す流れになります。最後に、市川さんがまとめの中で
「私がこの実験を好きな理由は…」
と語られるのですが、最終的に“好き嫌い”が前面に出てくるのも、サイエンストリガープログラムの真骨頂だといえます。
その瞬間、生徒たちの空気感が一気に変わり、「思考の自由」「嗜好の自由」を手に入れたような表情になるのです。
次回以降も、生徒には自由に科学を楽しんでほしいと思います。
宮原 聖子

文責:宮原 聖子
