研究者向けJAAS参加ガイド:研究者から見たJAASとキックオフミーティング

 この2月に誕生した日本科学振興協会(以下、JAAS)について、研究者の皆さまにもっと参加して頂くべく、研究者向けの「参加ガイド」を記します。

 JAASについて、多くの研究者の方は以下のような印象をお持ちではないでしょうか。
・参加しても得になりそうにない
・自分の研究と業務で忙しく手一杯で、参加を検討する気になれない
・得体が知れない
・下手に関わると雑用が増えるので止めておこう
・特定の思想がありそうで近づきがたい

 日本にこれまでなかったタイプの組織ですので、中身がよく見えないのも当然だと思います。このブログでは「研究者のためのJAAS参加ガイド」として、一研究者の立場から、なぜ、研究者がJAASに関わっていただくことが大切と思うのか、キックオフミーティングでの内容をもとに、ご案内してみたいと思います。

JAASで白紙のノートに「元気にしたい日本の科学」を描く

 JAASは、2022年2月22日に設立されたNPO法人です。6月のキックオフミーティングは1週間にわたって開催し、盛りだくさんの内容でした が、実は本格的に準備したのは設立後。わずか4ヶ月ほどで、ほとんど何もない状態から完成させたのは驚異的だと感じています。そのために活動してくださった皆様には感謝の念に堪えません。会場準備、プログラム作製、講演者やパネリスト依頼、資金集め、ボランティア集め、後援(文部科学省、JST、日本学術振興会、日本学術会議)の手配など、実に多種、多量の実務がありました。これらをこなすアジャイルな機動力があって、何でもできてしまうのがJAASです。

 キックオフでは4カ月でゼロからイベントを作りましたが、ゼロスタートなのはそれだけではありません。JAASというノートは、ほとんどまだ何も書かれていない白紙の状態といってよいと思います。HPを見ると仰々しいことが書かれていますが、正直なところ、その理念を実現するための具体的な計画はこれから作る段階なのです。当たり前ですが、科学を振興するには、まず活動の中身が必要です。科学を深く知る多くの研究者の方に参加していただくこと自体がJAASの中身になると考えています。

 白紙のノートといっても、どのような志向を持っている人が居るのかはキックオフミーティングの内容(他のブログをご覧ください)をみるとおおよそ理解できるかもしれません。そこには、科学に関するあらゆることが盛り込まれています。好奇心、イノベーション、シチズンサイエンス、オープンサイエンス、社会連携、研究環境改善など、JAASが貢献を目指すフィールドのキーワードは多種多様です。白紙のノートに、私達研究者だけでなく、いろいろな方々と、これから文字や絵を書いていくのです。そこには、まだ何でも大胆に書き込む余白が残されており、今から多くの研究者が参加してくれれば、さらに大きな力となります。こんなところから、草の根の活動が始まるのではないでしょうか。

JAASは「地球」、曖昧で幅広い存在

 JAASという組織は「地球」のような、捉えようのないプラットフォームだと、私は説明することがあります。地球には、いろいろな人がいます。すごいことを考える人もいます。変なことを考える人もいます。リベラルな人や保守的な人、断固とした考えを持つ人もいれば、ふんわりした考えの人もいます。こういう曖昧さと幅の広さが、JAASの凄み、懐の深さだと感じています。

 今回のキックオフミーティングの様子も、複数のメディアの報道で取り上げられています。そこで、ちょっと気になる表現として、「JAASがxxと言っている」というものをよく見かけます。メディアがある組織について報道する時は、その組織に所属している個人ではなく、その組織が何か見解を持ちうるがっちりとした存在であることを前提にしているようです。でも、そもそも、「地球がxxと言っている」という表現がありうるのでしょうか?「xxと言っている」ということに賛成している人も反対している人も、JAASでは共存しています。JAASは組織というより、場を提供する、いわばプラットフォームと理解した方がよいかもしれません。

JAASの参加者はとても多彩・多様です

 研究者はそれぞれ専門の学会に入会して、学会発表したり、学会の運営に関わったりすることがあるます。そういう学会で出会うのは、大学や研究所で研究している、同じような分野の研究者がほとんどだと思います。そこでは、彼らに向けて自分の研究を説明したり、他の研究者の話を聞いたりします。学会中のさまざまな研究者との交流や同窓会なども楽しみなのかもしれません。

こうした、同分野の研究者が集う学会でさえ、多様な参加者がいます。教授、任期付き助教、ポスドク、大学院生、時に学部生や高校生、企業の研究者、退官した研究者なども見かけます。

 ところがJAASは、そうした学会をはるかに越えた多様性を持っています。JAASで言う「科学」には、自然科学だけでなく、人文・社会科学も含まれますので、全く違った分野の研究者にも出会います。大学や研究所に所属する研究者だけでなく、企業の方、YouTubeでよく見かける科学系VTuberや芸人さん、中学・高校の先生や大学の学長・学部長、シチズンサイエンティストも居ます。研究者以外にも、メディアの方、官僚、政治家、高校生、色々な取り組みをしている当事者など──。通常の学会では考えられない幅広さですが、実際には研究者以外も含めたこういう人たちが、日本の「科学シーン」を作っているのだと思います。そして、こういう人たちの内幕や本音が聞けることがJAASの強みです。こういう見方があるのか、と気づくことも多いです。

 今回のキックオフミーティングでも、それを実感する場面が多々ありました。例えばポスター発表での一幕。あるポスターでは、高校生がとてもレベルの高い研究を発表していました。別のポスターでは、ある大学の医学系研究科長が自ら発表していました。アバターを使った発表もあり、新しい発表ツールで遊ぶ光景も見られました。記念写真を撮影した際、こういう方々が一堂に会して写る機会は、そんなにあるものではないと思いました。もちろん、その共通の合言葉は「科学」です。

 ワークショップ「科学の場に参加する”ハードル”を取り除くには」も特に印象に残っています。視覚や聴覚についての身体的なハードルに焦点を当てたもので、実際に障害を持つ当事者の方も登壇しました。このような登壇者の顔ぶれは、ふだんの専門学会ではほとんど見ないものです。科学知識を持っていることが生活の困難さを克服することの励みになるといったこれまで考えていなかった科学の効用や、研究のヒントを見つけることができ、貴重な体験でした。

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JAASで研究を磨き広める

 JAASには、サイエンスコミュニケーションに関心のある方が多いです。いろいろな考え方や方法があり、関わる人も多様な活動です。今回のキックオフミーティングでは、「#サイコムについて思うこと」(サイコムはサイエンスコミュニケーションの意)というTwitterのハッシュタグが設けられ、様々な意見が集まりました(https://togetter.com/li/1905766)。

 今回、私は研究発表をしませんでしたが、全く分野や立場の違う方々に自分の研究を説明することは、自分の研究のあり方を新たに見つめ直す機会もなります。一般に研究で多く引用されたりする研究は、一分野の人だけが関心を持つものではなく、他分野の人から見ても魅力的なものがほとんどです。有名ジャーナルに掲載される論文の条件に、「一般的な科学者にも興味を持ってもらえること」というものがあります。そういう「興味を持ってもらうセンス」を磨くためにも、時に全く分野や立場の違う人たちに自分の研究を説明してみるというのは役立ちます。それが、研究者の立場で関わるサイエンスコミュニケーションの大きな価値だと、私は考えています。もちろん、それだけでなく、世の中でよく知られていない研究を広く知ってもらうことにも役立つでしょう。

JAASで科学と研究者の生の姿を伝える

 キックオフミーティング初日の「日本の科学をもっと元気に:イノベーションを産む場を創ろう!」のパネルディスカッションでは、平将明・衆議院議員の指摘にはっとしました。政治家が学術的な発言をすることを「学者みたい」、科学者が大きな組織を動かそうとすることを「政治家みたい」──というのが、お決まりの悪口だというのです。これは、我が国の研究者と政治家があまりに分断されているという本質を突いた話です。日本の歴史の中で、政治の現場に研究者が関わることが少なかったことにも起因している、長年の課題だと感じます。政治家に科学や研究者の生の姿や意見を伝えていくことが大切と思います。

 2日目の、「元気に科学する場を創ろう!」のパネルディスカッション では、日本の研究環境の問題点の一部が議論されていました。こういう問題点というのは、研究機関や学会では、いわゆる「愚痴(ぐち)」として終わってしまうものが多いと感じています。そして、ある研究者は我慢し、別の研究者は事務の「裏技」を考案して解決しようとする。研究者によっては、個人で頑張って訴えたり、抗議を行ったりするのですが、力及ばないことや変わり者の発言だと無視されてしまうことがほとんどです。その結果、研究者が直面している生々しい問題は、制度を作っている大学の上層部、官公庁の方々、政治家、オピニオンリーダーであるメディアの方々にも、なかなか上手く伝わりません。

JAASはふだん出会わない人と「対話」する場所です

 JAASでは、政治家に提言を手交しに行ったり、大学の学長や官公庁の官僚の方々と直接話したりする機会も多々あります。とにかく、問題だと感じることは本当に伝えるべき人に伝え、その解決にはどのようなことが考えられるのか、対話してみようというのが、JAASという場です。

 そして、このような活動に参加するか否か、決めるのは研究者の皆さんです。多くの研究者が自分とはあまり関係なさそうな学会に入会しないのは、じゃまな仕事が増えてしまうからだと思います。JAASは専門学会のように、あなたはこういう義務があって、これをやらないと、あなたに研究者としての将来はありませんよ、などと半ば強制されたりすることはありません。「日本の科学を、もっと元気に」がJAASの合言葉です。一緒に奮闘してくださる方をいつでも募集しています。

(文責:山形)

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