JAASキックオフミーティング振り返りシリーズ第2弾! イノベーションを産む環境を創るには……!?

 皆様、暑い中いかがお過ごしでしょうか(私が住んでるところは暑くないよ!という羨ましい方もいらっしゃるかもしれませんね)。ブログ担当の中西です。

 前回に引き続き、この記事でも6月に開催されたJAASキックオフミーティングの振り返りシリーズをお届けしたいと思います。まあ、こんなこと書いてる私自身はちょうどキックオフミーティング直前に体調を崩して現地参加はできなかったんですけどね。

 いったい何を食べたのが良くなかったのかと思い悩む毎日……いえ、そんな過去ばかり振り返っている後ろ向きな姿勢ではいけませんね。人間、もっと前向きにならなくては。

 そんな話はさておき、キックオフ振り返りシリーズの第2回目は、シンポジウム「日本の科学をもっと元気に:イノベーションを産む場を創ろう!」のレポートを掲載いたします。執筆してくださったのは、前回の宮嶋さんと同様に学生ボランティアとしてキックオフミーティングに参加された豊橋技術科学大学の越智雄大さんです。

シンポジウム「日本の科学をもっと元気に:イノベーションを産む場を創ろう!」(執筆:越智雄大)

  • 座長:宮川剛(藤田医科大学 研究推進本部 総合医科学研究部門)、北原秀治(東京女子医科大学先端生命医科学研究所)(敬称略、以下同じ)
  • オーバービュートーク「AIイノベーションと基礎研究」:紺野大地(東京大学 医学部附属病院 老年内科)
  • 講演①「ネオコグニトロンの着想 ―視神経系からヒントー」:福島邦彦(ファジィシステム研究所 特別研究員)
  • 講演②「科学こそが新産業をイノベートする ―亡国の危機から如何に抜け出すか?―」:山口栄一(京都大学 名誉教授)
  • パネルディスカッション:畑恵(作新学院 理事長)、安宅和人(慶應義塾大学 環境情報学部,Z ホールディングス株式会社,データサイエンティスト協会)、平将明(衆議院議員,自民党広報本部ネットメディア局長・デジタル社会推進本部 NFT政策検討プ ロジェクトチーム)、松尾泰樹(内閣府 科学技術・イノベーション推進事務局)

 シンポジウム「日本の科学をもっと元気に:イノベーションを産む場を創ろう!」では、少子高齢化問題やエネルギー問題などの私たちの社会に山積する難題を解決し、すべての人が豊かで健康な生活を安心して送ることができる未来を創るために必要な科学による変革(イノベーション)が産まれやすい場や環境はどのようなものか、また、その場や環境をどのように創っていくか、という議論が行われました。

オーバービュートーク「AIイノベーションと基礎研究」

 シンポジウムは、紺野先生のオーバービュートーク「AIイノベーションと基礎研究」によってイノベーションの代表例としての人工知能(AI)による社会変革を概観するところからスタートしました。

 「文章を書く」という能力は人間の専売特許だと感じている方が多いのではないでしょうか。近年の人工知能は、人間の書いたものと区別できない文章を書く能力があるそうです。また、よりクリエイティブな能力である「絵を描く」ということにおいても、写実的な作品から幻想的で抽象的な作品まで人工知能によって創ることが可能となっています。実際の作品はアーティストが描いたといわれても気付かないほどで、会場から感嘆の声があがりました。

 人工知能は画像認識技術から始まり、検索や自動運転など様々なイノベーションを起こして、社会の課題を解決してきました。ここで忘れてはいけないのは、これまでの人工知能によるイノベーションはイノベーションを目的とした研究ではない基礎研究が源泉だということです。

 現在、人工知能は「文章を書くや絵を描くといった『特化型』であること」、「学習に大量のデータが必要」、「消費電力が多い」という課題を抱えていますが、これらの課題を私たちの脳は克服しています。人工知能の限界を超えるために、脳の知見を人工知能へ活かす基礎研究からイノベーションを生み出すことが必要となっています。

 オーバービュートークでは、イノベーションの源泉には基礎研究があるということ、そして、イノベーションを生み出すために今こそ基礎研究への投資が必要であることを痛感しました。

講演①「ネオコグニトロンの着想 ―視神経系からヒント

 次の福島先生による「ネオコグニトロンの着想 ―視神経系からヒント―」という講演では、現在のAIの起源となったネオコグニトロンの着想に至った経緯や背景から、研究を発展させるための知見を伺うことができました。

 福島先生は1965年頃、ネコやサルの視覚神経系での情報処理機構に関する生理学実験の結果に興味を持ち、それを工学的に実現できるような神経回路モデルの研究をはじめ、最初は網膜の電子回路モデルの研究などから、神経回路モデルを作りました。現代のAIの起源である研究が半世紀も前の出来事だったことに驚きを隠せません。

 その後、人工知能のような学習能力のあるモデルを目指して競合学習の原理を導入し、「ネオコグニトロン」の前身である神経回路モデル「コグニトロン」を作成しました。しかし、入力パターンの変形や位置ずれ、拡大・縮小に対応できないという課題が残りました。この課題を解決し「ネオコグニトロン」を産み出すきっかけとなったのが、魚類や両生類の生物の持つ機能だったそうです。

 今後のAIの目標の一つは、現在のAIとは違い「万を聞いて億を知る」能力を持たせることです。この実現には、脳の解明で得られたものをAIの強化に活かし、そして、AIによって脳の解明をするという分野を超えた関係が必要です。

 講演では、研究の発展には自分の研究分野だけでなく、周辺領域、特に境界領域にも広く目を向けることで大きなヒントが得られ、新しい発想に繋がることを教えていただきました。また、AIについての魅力が溢れ、AIをもっと知りたいと感じる講演でした。     

講演②「科学こそが新産業をイノベートする ―亡国の危機から如何に抜け出すか?―」

 山口先生の「科学こそが新産業をイノベートする ―亡国の危機から如何に抜け出すか?―」という講演では、イノベーション生態系をどのように再構築すればよいのかについて道筋を示していただきました。

 近年の日本の学術論文数を諸外国と比較すると、日本だけが減少傾向にあるという深刻な事態に陥っています。この原因は、研究に対して「選択と集中」が行われたこと、日本の大企業が基礎研究から撤退してしまったことだと指摘されていました。

 このような現状を打開するためにはイノベーションが必要ですが、では具体的にどのようなイノベーションが必要なのでしょうか。イノベーションには、知の創造である研究と価値の創造である開発から生まれるという二次元構造が存在していて、その中でもパラダイム破壊型イノベーションが重要だということがイノベーション・ダイアグラムを用いて紹介されました。課題解決に向けた方法論からイノベーションが産まれるプロセスまでを丁寧に講演していただき、イノベーションという言葉の意味や価値を再認識しました。

 そして、イノベーション生態系を再生するには、①科学行政官制度などを導入しイノベーションの目利きの発掘すること、②若い研究者をパラダイム破壊型イノベーター・起業家へと転ずる仕組みを作ること、③日本国中央研究所など分野をやすやすと越境し回遊する科学者の共鳴場を創ることの3つが必要だと示されました。

 日本の明るい未来を実現するためには、研究者がイノベーションを生み出す環境を整えることが重要で、社会全体で取り組まなければならない急務だということを強く実感しました。

パネルディスカッション

 最後のパネルディスカッションでは、日本の科学をもっと元気にするためにはどうしたらよいか白熱した議論が行われました。

 畑さんは、日本は資源に乏しいからこそ人・科学技術に懸けるしかないということを強く述べ、一人一人が「分野横断的な取り組みのための大同団結」、「基礎研究の価値を正しく評価してもらうための見える化」、「人任せではなく主体的な活動をする」ということを意識してJAASの活動に参加することが、研究者や科学を元気にすると語りました。畑さんが挙げられた「大同団結」「見える化」「主体的な活動」には登壇者のみなさんが賛同し、今後の取り組みへの共通認識を再確認する機会となりました。

 安宅さんからは、イノベーションを産むための場や環境に必要な人材は貴重リソースで確保が難しい上に、科学行政官制度など全体としての設計も弱いなど、日本の惨状ではかなり現実的な計画が必要となるという厳しい意見がありました。しかし、悲観的な意見が多いのは分析が足りないだけで、日本の科学には基礎がないわけではないし十分に未来はあるといった意見、そして、社会を悪くしたい人なんていないし筋が通っていれば変えられるという言葉は、今後の日本を担っていく私たちにとって希望を感じさせるものでした。

 平さんは、ローメーカーとアカデミアで緊密な連携をとるために、ビジョンを作り相手を見極めて直接対話することが欠かせないということを指摘し、この対話のために時間を割いて日本の科学をよくしましょうという議論の本質的な部分に迫りました。これには座長の宮川さんも深く共感し、改めて分野を超えた対話や活動の重要性を認識する議論となりました。

 松尾さんからは、「公」の立場から教育の場へのアプローチによって根本から変革するなど具体的な取り組みも含めた意見が注目されました。アカデミアやローメーカーなど各主体は基礎研究の価値を理解しているが、正しく評価することを恐れて悪循環に陥っているという現状を改善するために、それぞれが取り組むべき課題に向き合った上で連携を図ることの重要性を述べられました。

 議論は尽きず時間が許すなら継続したいという想いが会場に溢れていましたが、最後は登壇者一人一人からの将来の科学への希望の言葉で締めくくられました。

 登壇者のみなさんが「日本の科学を、もっと元気に!」するという環境を実現するために、JAASがつくる「対話と協働の場」に期待を寄せていることを切に感じるようなパネルディスカッションでした。

 このシンポジウムでは「イノベーションとは何なのか」、「イノベーションを産むための場や環境とはどのようなものか」、「その場や環境をどうやって創っていくか」というテーマから、「日本の科学を、もっと元気に!」するための貴重な一歩を踏み出したように思います。また、示唆に富んだ意見の数々には、私自身を含め多くの人のこれからの行動を指し示すものだったのではないかと期待しています。

 JAASのつくる「対話と協働の場」の可能性を目の当たりにし、日本の将来を担う一員として、今後も積極的に活動へ参加したいという気持ちが強まりました。

ブログ担当より

 イノベーションはこのシンポジウムだけでなく、オンラインプログラムを含めたJAASキックオフミーティング全体を通じて何度も取り上げられたテーマです。科学の役割としてイノベーションの創生を期待する人が、それだけ多いということなのでしょう。

 その一方で、イノベーションを目的とした研究ではない基礎研究こそがイノベーションの源泉となってきたのだという点についても、本シンポジウムやランチョンセミナー「好奇心を原動力とした研究」で繰り返し言及されています。

 どのようにすればイノベーションを生む産む場が創れるのかについては、人によって意見が異なる部分もあるかと思います。しかし本シンポジウムでも「社会を悪くしたい人なんていない」と述べられたように、相手もまた社会を良くしたいと思っているのだと信じて対話を重ねていくことが、イノベーションを生む産む場をただ創るだけでなく長期的に維持していくためには大切なのかもしれません。JAASではこれからも、そのような対話が続けられる場を提供していきたいと思います。

(文責:中西秀之)

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