こんにちは。ブログ担当の鈴木です。
JAASキックオフミーティングが開催されてから1ヶ月が経とうとしています。
この振り返りシリーズは第3回目を迎えますが、なんと、まだ1日目の内容を振り返っております。キックオフミーティングは1週間開催されていましたので、振り返ることはまだまだ山ほどございます。
はたして、夏が終わるまでに振り返りきることはできるのか…!? そちらのチャレンジも併せてお楽しみください。
さて、本日は、キックオフミーティング1日目の最後を飾ったワークショップ「日本の科学をもっと元気に:科学を楽しむ場を創ろう!」のレポートをお届けします。
執筆してくださったのは、開会式のレポートも書いてくださった、豊橋技術科学大学の宮嶋太陽さんです。
JAASならではの異分野交流が実現した本セッション。宮嶋さんの視点を通して、ぜひ追体験してください!
ワークショップ「日本の科学をもっと元気に:科学を楽しむ場を創ろう!」(執筆:宮嶋太陽)
1日目のワークショップでは、科学と音楽の関わり合いをテーマとして、科学と音楽が作る未来について、想いを語り、意見を共有しました。
本ワークショップでは、宇野毅明さん(情報・システム研究機構 国立情報学研究所の)を座長として、音楽情報処理を専門とする浜中雅俊さん(国立研究開発法人理化学研究所)と、アンサンブルピアニストでありJAAS理事でもある河上薫さん、ソプラノ歌手である若井有里亜さんによって議論が行われました。まず、河上さんと若井さんによる演奏を生で体感し、科学と音楽の未来への対談に移りました。
お二人には、以下の2曲を演奏していただきました。
- ルイージ・アルディーティ(1822-1903)くちづけ(Il bacio)
- ジャコモ・プッチーニ(1858-1924)蝶々夫人より「ある晴れた日に(Un bel dì, vedremo)」
私はキックオフミーティングの運営スタッフとして、ボランティアで参加いたしましたが、普段聴くことのできない生演奏を聴くことができ、終始圧倒されました。若井さんの動きと表情、声、そしてその声とともに聴こえてくる伴奏の音、全てが心地よく、日本語の歌詞ではなかったのですが、一つの物語が連想できる素晴らしい演奏でした。1日目の最後のプログラムでしたが、参加された方は、リラックスした雰囲気で音楽を楽しむことができたのではないでしょうか。
音楽の持つ生の力を体感した後、本ワークショップは音楽と科学技術の対談へと進みました。対談では、それぞれの活動から生まれる楽しさや興味などの意見交換のあと、浜中さんによるAIを駆使した楽曲の構造解析や作曲の支援技術の研究が紹介されました。
まずは、音楽を体験できるアプリとして、仮想現実でコンサートを体験できるアプリが紹介されました。そのアプリを使うことによって、iPpadの方向に応じて聴こえ方が変化し、空間音響を使った能動的な音楽鑑賞体験ができるそうです。今後は、AIやVR技術を使って臨場感あふれる音楽をどこでも体験できるようになるかもしれません。
では、情報処理技術によって体験できる音楽は、完璧に生の音楽を再現することができるのでしょうか。このトピックに対しては、浜中さん、河上さん、若井さんともに不可能であると指摘されました。河上さんと若井さんは、その理由として、会場の湿度やほこり、その日食べたものなどによって音楽は変わってくることを挙げられました。
しかし、歌唱ではなく、楽器の演奏であれば再現の余地はあるとのことです。楽器を演奏するときに人間がどのように振る舞っていて、それをどう再現するかについては、今後の研究動向が楽しみになりました。
楽曲の構造解析に関する研究では、タイムスパン木を用いたメロディの解析が紹介されました。タイムスパン木は、曲中のメロディの構造的な重要度を階層的に表示したもので、このタイムスパン木によって過去の音楽などを分析し解釈することが可能になるそうです。河上さんと若井さんによれば、音楽の研究では過去の作品を分析することが重要とのことなので、タイムスパン木の活用が期待されますね。
最後に、座長の宇野さんは、「極めている人が、どういう風に、何を求めているのかを知ることができて良かった。」とおっしゃられました。私は、本ワークショップを通して、科学は音楽と同じように誰かの役に立ち、誰かを元気にする力を持っていることを実感しました。科学がもっと元気になれば、日本全体も元気になるのではないでしょうか。
ブログ担当より
美しい音楽や和やかな対話が聴こえてくるようなレポートでした! 宮嶋さん、ありがとうございます!
このワークショップでは、科学と音楽という異なる分野のプロたちが交流し、お互いをリスペクトしながら対話を重ねました。
その結果、一見まったく異なるように感じる科学と音楽に共通の価値観が見つかったり、それぞれの価値を再発見することができたりと、立て続けに意外な発見を得ることができました。
短い時間でしたが、新しい研究や文化の始まりを見ているのではと思わせる、刺激に満ちたひとときでした。
これまでの記事でも繰り返し述べられているように、大切なのは「対話」だと感じます。
異なる背景をもつ人々が互いを尊重しながら対話を重ねていくことで、思わぬところに眠っている研究や文化の種を発見することができるかもしれません。
(文責:鈴木 遼)