現在の研究環境が抱える問題とは? JAASキックオフミーティング振り返りシリーズ第5弾

 皆様、こんにちは。ブログ担当の中西です。早いもので、キックオフ振り返りシリーズも第5回となりました。

 今回は、パネルディスカッション「日本の科学をもっと元気に:元気に科学する場を創ろう!」のレポートをお届けしたいと思います。執筆を担当してくださったのは、横浜市立大学大学院医学研究科の井関みひめさんです(これまでの振り返り記事の執筆者と同様、井関さんも学生ボランティアとしてキックオフミーティングに参加されていました)。現在の研究環境、特に若手研究者がおかれている状況について学生の立場からはどのように見えているのか――その一例として参考にしていただければと思います。

パネルディスカッション「日本の科学をもっと元気に:元気に科学する場を創ろう!」(執筆担当:井関みひめ)

【メンバー(敬称略)】

座長

  • 北原 秀治(東京女子医科大学先端生命医科学研究所)
  • 宮川 剛(藤田医科大学 研究推進本部 総合医科学研究部門)

話題提供①

  • 佐貫 理佳子(京都工芸繊維大学/ 卓越研究員第一期生)

話題提供②

  • 宮川 剛(藤田医科大学 研究推進本部 総合医科学研究部門)

パネルディスカッション

  • 斉藤 卓也(文部科学省 科学技術・学術政策局)
  • 須田 桃子(News Picks 副編集長)
  • 室生 暁(東京医科歯科大学 臨床解剖学分野)
  • 柳沢 正史(筑波大学 国際統合睡眠医科学研究機構)
  • 平林 晃(衆議院議員)
  • 鈴木 健吾(株式会社ユーグレナ)
  • 吉田 晴美(衆議院議員)

 私はこのパネルディスカッションを通じて、日本の科学をもっと元気にするためには、「元気に科学する場」の重要性を最も知る研究者が声をあげ、行動し、多くの人に発信・対話することが重要であると感じました。これには、議論中「対話」というキーワードが度々挙がったことも影響していますが、何より、このパネルディスカッションという「対話」を実際に見て聞いて、大きな物事が進んでいくことを感じたことが一番の理由です。

 佐貫理佳子先生(京都工芸繊維大学/卓越研究員第一期生)は、研究力のある若手研究者が適切な評価を受けられず、いつ途切れるか分からない研究費と先の見えないキャリアという不安に晒され、科学者の「元気に科学する場」が妨げられている問題を提言されました。この主な原因として、研究の価値を見極められる大学教員の多忙、現在の研究費や雇用の仕組みの問題が多数指摘されました。

 私も実際に大学の教授や准教授が、事務作業や大学運営、多数の会議に追われている様子を見たことがあります。中には、研究をしている姿をなかなかお見かけしない方もいらっしゃいました。抜群の研究力を持つ研究者がご自身の研究や学生の指導に時間を取れずにいることは、日本にとって非常に大きな損失だと思います。まさに、綺麗な花を咲かせる植物(=研究者)に水をやらず、過酷な環境下で顔を出した芽(=学生、若手研究者)を摘むような状況だと思いました。

 このような深刻な状況を打破するには、大学への経済的な支援と、若手研究者が継続的な研究支援を受けられる仕組み、あるいはアカデミア以外のキャリアパスの存在が必要です。JAASはこのような体制の実現のために緻密な計画を行い、まさに日本でその前線に立って行動に移している団体なのだと思います。そして、こうして立ち上がったJAASの発する声を様々な背景をもつ専門家の皆様が重く受け止め、熱いディスカッションをされている様子が、今回のキックオフミーティングでとても印象的でした。もちろん、問題解決にはまだまだ多くの方々の同意と更なる緻密な計画、そして時間が必要なことかと思いますが、この先もきっと解決への突破口は「対話」という実にシンプルなところにあるのだと思います。

 こうして科学の重要性をより多くの人が理解し、またそれを誰かが伝え、人から人へと伝播していけば、この根の深い日本の科学の問題も着実に解決へと進むはず。そのような前向きな想いが私の中にも芽生えました。

 現在、先進国の中でも科学離れの加速がとても懸念されている日本ですが、鉱産資源に恵まれず自給率の低い日本にこそ科学が必要です。短期間では結果が出にくい研究も多いですが、研究者の自由な発想が革新的な発見を導き、日本の未来を創ってくれると思います。

 だからこそ、「元気に科学する場」の重要性を“日本で研究者を目指す学生・若手研究者” はもちろんですが、“科学に特別関心がない人” にもっと知ってもらいたいです。

 私もまずは身の回りから、伝えていきます。

ブログ担当より

 最近では研究者雇い止め問題の件などもあり、一般向けニュースでも日本の研究環境の厳しさについて報道される機会が増えたように思います。大学で実際に研究に携わるようになった学生の間では、このようにニュースで取り上げられるようになる前からよく知られた話で、私自身も昔、教員から博士課程進学を勧められた直後の後輩が「飛行機で隣に座った乗客がDr.と呼ばれているのを聞いてかっこいいと思い、博士号をとることにした人のエピソードとか聞かされましたけど、飛行機でどう呼ばれるかより生活の方が大事ですからね」と冷めた様子で話すのを聞いたことがあります。こうした現状も、日本では博士号取得者数が諸外国と比して減少傾向にあることの一因かもしれません。

 JAASでは人々が希望をもって研究者への道を選べるよう、研究環境改善ワーキンググループが中心となって、日本の研究環境をとりまく問題の解決に取り組んでまいります。もしこの記事を読まれて、自分も研究環境改善のために何かやってみたいという方がいらっしゃいましたら、JAASへの入会をご検討いただけると幸いです。

(文責:中西秀之)

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